たゆたう

子供の頃、雨で濡れた路面に車のライトが反射してユラユラ伸びているのを見て、この地面の下にはもう一つの世界があるんだと思っていた。現実とほとんど同じだけども、少しだけ違う揺蕩う世界の存在。想像すると気持ちがフワフワして軽くなった。この頭の余白に、その想像力は生きている。現実はただ一つだが、それではあまりに世知辛い。たとえ世界がただ一つであろうとも、僕は揺蕩うあの世界への想像力を無くしたくない。

現実は多数のフィクションから成り立つ。フィクションの群れたちの残像が、現実の確からしさへ向かうその前に、あの浮遊した身体に戻りたい。ただ、身体が軽くなりすぎると、それはそれで生きにくいから、この現実の強度へ向かう練習が必要なんだ。大事なのは意味ではなく強度。