伊藤計劃 「虐殺器官」感想

ゼロ年代を先頭にたって引っ張るはずだった伊藤計劃。その処女作。解説、大森望より。

いま言語化不可能な読後感に晒されて、横浜の大桟橋に停泊するアメリカ船の電飾を見ている。

この作品のあらすじを書くのは野暮だろう。というかうまく書けないだろう。いや、そんなものは、どっかのサイトに書いてあるだろう。では何を書くのか。

彼の文体は恐ろしいほど強靭で繊細である。(これも解説に書いてあった)冒頭の少女と少年の骸の描写を読めば、しばらくはこの本を閉じる事はできないだろう。淡々と進んでいく物語は、シェパード(主人公)の回想録として描かれていく。そしてその回想録が終わった後に、彼が自宅で、いま何を考え、なにをして、そして世界は、アメリカはどうなっているのか、もしくはどうなって行くのかが一通り書かれ、おわる。なにか衝撃的な結末が待っている訳でもない。ただ淡々とおわる。だが物語全体を通読した後に、いや通読してから数時間、数日、数年経った時に、恐ろしいほどの衝撃ーも来ないかもしれないが、確実なのは、しばらくこの物語は僕の脳みそから離れる事はないだろう。

これを、偶然読んでしまった人には是非、「伊藤計劃の文体」を体験してもらいたい。