歌舞伎町的、あまりに歌舞伎町的な Ⅱ

王様はこう言った。

「この中で、今日始めての人いる?」

「はい」

「じゃあリュウくんと、女の子。2人でプレイルームに行け!」

僕は王様のいいなりになりつつ、且つ、1万円払った見返りを受けるべく、メンヘラの横に座った。もはや普通の会話ができないほど昏酔していた。プレイルーム行こうと言うと、ちょっとトイレに行ってくると言った。

王様が僕に命令を下した時、店に1人の女性が入ってきた。その女性は、30分で帰ってしまった女性よりも、そして当然メンヘラよりも、綺麗な人だった。その女性の登場で、店内のヒエラルキーは一瞬にして崩壊し、もはやメンヘラの居場所は無かった。その女性の会話を聞いていると、いわゆるサバサバ系の女子で、こういう場所によく来ているのかとても慣れた感じで男たちと話していた。死んだ魚の眼をしていたサラリーマン2人も突如として、ギラギラと光る捕食動物の眼へと変わっていた。

メンヘラがトイレから帰ってくるとこう言った

「ぶりっこきらい?」

僕はメンヘラが自分の事を言っていると察したので、気分を損ねないようにこう言った。

「そんな事ないよ、すきすき」

メンヘラは黙りこんでしまったので聞き返した

「え?なんで?」

「あそこのカウンターの人、喋り方ぶりっこ。」

なるほど、昏酔しているように見えるメンヘラも綺麗な人が入ってきて、男達の興味が自分から離れたことに気がついて嫉妬していたのだ。いかにも、メンヘラ的である。

僕は今にも寝そうなメンヘラを抱きかかえてプレイルームへ連れて行った。プレイルームのソファに横になった彼女は、もうほとんど寝ていたので感覚としてはレイプしてるのに近かった。胸や、オマコを触れば多少の喘ぎ声は出るが、それよりも寝たい気持ちが勝っていたのか

「お願い、ねさせて。ふむゃはにゃ、、、」

と何回も言っていた。そんなことはお構いなしに、パンツを下ろしゴムを付けて挿入しようとしたとき

「やめて、寝るの!」

と大きな声で言った。少しビックリしたのと、その声があまりに本気だったので、射精を伴わない賢者モードへと突入した。彼女に毛布をかけて僕はソファへと戻った。なんだこれ、そう思いながらタバコ吸った。お店の何人かは僕とメンヘラはセックスしたのだと思っていただろう。カウンターでは、ヒエラルキーの頂点に立つ綺麗な彼女の両脇に2人の男性が座り、女性の後ろに、若いサラリーマンがパンツ姿で立っていた、サラリーマンは、おリンリン一発芸などをやって盛り上げていたが、あくまで女性の雰囲気は常連との会話やその場を楽しんでるだけでプレイルームに行く感じは全くなかった。気がつくと、少しポッチャリした女性が一人増えていたが、その女性も同じような雰囲気だった。時刻は4時。40分くらい寝てから、メンヘラのところへ行き、起きていたらセックスしようと思いソファに横になった。横になったとはいえ、僕は、自宅か、実家か、最も仲の良い友達の家か、後はホテル(ひとりのときだけ)以外で寝ることが不可能なので。眼を閉じていただけだ。この店は5時に終わる。あと20分くらいになったところでプレイルームへ行ったが彼女は、熟睡していた。なにをしても起きることはないというほどの熟睡だった。僕はもう全てを諦め、そのままプレイルームに居た。

時間になり、店員さんが

「みなさん、時間ですよー、」

と言い、僕の初ハプニングバーデビューはなんとも言えない終わり方をした。僕に気を使ってくれた常連さんにお礼を言ってから、足早に店を出た。当然、おリンリンはよく分からないテンションになっている。安いヘルスでも行って帰ろうと思い、朝の歌舞伎町を歩き出す。

「お兄さん、遊んでいきますか?」

いつもならこんな路上で話しかけてくる人は無視するのだが、携帯でヘルスを調べるのも面倒だし、あまりにタイミングが良かったので、声をかけてきた30歳くらいの小太りの男の話を聞いた。予算を聞かれたので、1万円以内です。と答えると、2万出せば本番できますよ。とか色々言われた。そんな話をしていると別の男が現れて、何故か3人でもう一人の「業者」という人の元に向かった。もう眠いので、すぐに終わらせて帰りたかった。そして、ビルの開けた一階で、その業者が待っていた。業者はiPadで10人ほどの女の子を見せて、指名すると2000プラスだと言う。とんでもないブスはいなかったので指名なしでその場で1万円渡した。業者以外の2人は何処かへ行き、僕と2人でレンタルルームへ行った。レンタルルームの場所は歌舞伎町のかなり外れにある場所だった。

「受付で、待ち合わせで、と言ってください」

「はい」

エレベーターで3階に行き、扉を開けた。営業しているとは思えない程の暗さだったが、一応受付に人は座っていた。

「待ち合わせで」

「はい、何分ですか?」

「40分です」

「うちは60分からなんで、2000円になります」

「はい?お店の人は、1万円でルーム代込みだと言ってましたよ」

「お店の人?なんていうお店?」

「聞いたけど、忘れました。電話きてないんですか?」

「電話?うちは独立店なのでそういうのは一切ないですよ」

ぼくはこの時、全てを理解した。歌舞伎町の全てを。そしてぼったくり詐欺の手口を。その受付の店員は、僕の横まできて、1万円は相場的におかしいですよ。とか、お店の名前分からなかったら、ちょっととか色々言ってきた。アルマーニのtシャツを着た強面の人だったが、眠さと苛立ちで全く恐くなかった。僕は、このレンタルルームもどうせさっきの業者と組んでいると予想したので、そう簡単には帰らないと思ったが、今の段階で組んでいる証拠はなかったし、途中で奥からガタイのいいプロレスラーみたいな細眉が出てきて、半ばキレ気味で色々言ってきたので、面倒になりレンタルルームを後にした。とりあえず今から業者を見つけ、挽肉にしてやろうと思いそこから30分くらい歌舞伎町を歩き回った。まぁ当然見つかる筈もないのだがひとつ面白いことがあった。レンタルルーム屋の細眉プロレスラーが後をつけて来ていたのだ。それに気がつき、そしてなんだか楽しくなって来たので、気付かないふりをしながら、彼の後ろに回り込んだりしていた。さすがに気付かれた事が分かったのか途中から居なくなってしまった。彼らのぼったくり詐欺のやり方はこうだ。

①とりあえず声を掛けて、まずは高めの値段設定を言う。

②立て続けにひとを入れ替えて、顔をなるべく記憶させないようにする。

③なるべく遠いレンタルルームを案内し、探しにくるまで時間を稼ぐ。かつ、受付の店員もなるべく時間を稼ぐ。

④キャッチの人を探し行った客を店員が尾行し、位置を伝える。レンタルルームと連携している証拠がないので、尾行にバレてもリスクは少ない。

こう書くとすこし巧妙に見えるかもしれないが、実際に体験してもらいたい。声を掛けられた瞬間から、レンタルルームの受付へ行くまで、これが詐欺だと気付くタイミングは50回くらいあった。それでも気付かないハプニングバー帰りの阿呆がたまにいるから彼らは味をしめてやっているのだろう。今は彼らに怒りはない。(うそ)なぜなら、賢い人が阿呆から金を取るのは、別に詐欺とかではなくとも、そこら中で行われていることだからだ。それが社会というものだ。

僕はそんなことを無理やり考えて自分を落ち着かせていた。歌舞伎町でチカラめしを食べて朝8時ごろ家に帰った。起きると妙にテンションが高かった。変な時間に寝たからテンションがおかしくなってたのだろう。その時母親からメールがきた。

「元気?(姉の名前)だけど、男の子妊娠したよ!」

センスオブワンダー。歌舞伎町でハプニングバーに行き、その後1万円ぼったくられるという事をして帰って寝ている時に、母親は自分の子供を心配してメールをし、姉は子供を妊娠していたのだ。これが果たして現実なのか。僕はこの振り幅に酷い、二日酔いを起こしそうになった。もしかしたらこれは現実ではないのではないか。仮にも現在だとしても、自分自身は誰かに操られているただ人形なのではないか。もしくはこの世界は何かのゲームなのではないか。そんなことをメールを見たときに思った。

たがこれは一時的な感情ではない、時々そんな風に考えることがある。もしかしたらこれは、複雑な世界から自分を守る、これからの自己防衛の仕方なのかもしれない。現在に生きながら現在に生きない。自分の他に「人形使い」がいて操作されていると考える。そしてゲームをプレイするように生きる。そうすることでこの複雑な社会をうまく生きているかもしれない。

あまりに歌舞伎町的な出来事から一瞬にして地上の世界へ移動した瞬間にそんな事を考えた。